2021年11月のよかったもの

DJ Bar 東間屋

azumaya.jp

お香の焚かれた和モダン風な狭い箱にバーとDJブースとフロアが整列していて、贅沢な空間だった。基本的にダウナーな選曲で居心地がいい。

好きな音楽を肌で聴ける個室空間がカラオケボックスの要領でいっぱいあるべきだってずっと言い続けてるけどまだ見たことがない。

 

無響室

6m×6m×6mくらいの無響室に入る機会があった。入り口から一歩入った瞬間に空気が変わるのがわかった。それまで気付いてすらいなかったノイズがぜんぶ消えて、無音の圧迫感があった。

数十分間スピーカと対峙して、いろいろな音を次々と聞いてはとある観点から評価するという作業を繰り返していると、自分の聴覚は10秒前と変わっていないか、自分の評価の感覚は10秒前と変わっていないか、とても不安になった。スピーカとのにらめっこは何度やっても勝てなかった。

 

『荒涼館』

19世紀半ばのチャールズ・ディケンズの小説。ロシア小説みたいに、長編で登場人物が多い。友人に勧められて読んでるけど、5年半前に同じ人に勧められたのがトルストイの『アンナ・カレーニナ』だったので、友達の趣味がちょっとわかる。自分は5人以上の名前があると混乱してしまうのに、この本は登場人物が多すぎて冒頭に主な登場人物リストが4ページ分ある。

いくつも世代をまたぎもはや誰も全貌がわからないほど長期間続く裁判の話から物語が始まるが、登場人物を覚えていない自分はこの本を開くたびに物語の全貌がわからず局所的な読書をすることになるので、メタ的に同じ体験をできていると思うと楽しい。

第一章の語り口が堅苦しいのに第三章から表現が大きく変わったのが気になって原文も調べてみた。

第一章冒頭(佐々木徹訳):

ロンドン。ミクルマス開廷期は先日終了。大法官閣下はリンカーンズ・イン・ホールに出廷。十一月の無慈悲な天候。泥まみれの街路。さながら大洪水が引いた直後。(...)絡まり合う歩行者の傘。不機嫌の伝染。夜明け以来(本当に夜が明けたと言えるとして、)何万人が足元の悪い街角で転倒。歩道に粘着する泥。泥の上に蓄積する泥。泥の複利的増加。

第三章冒頭(佐々木徹訳):

いまからこの物語のわたしにわりふられた部分を書きはじめるのですが、とてもむずかしくてこまっています――りこうでないものですから。それは生まれたときからわかっていました。ほんのちいさいころお気にいりの人形に、二人きりになると、いったものです。「ねえ、ドリー、わたしはりこうじゃないのよ、おまえもとっくに知ってるでしょ。いい子だからがまんしてね」

第一章冒頭(原文):

London. Michaelmas term lately over, and the Lord Chancellor sitting in Lincoln's Inn Hall. Implacable November weather. As much mud in their streets as if the waters had but newly retired from the face of the earth, (...) Foot passengers, jostling one another's umbrellas in a general infection of ill temper, and losing their foot-hold at street-corners, where tens of thousands of other foot passengers have been slipping and sliding since the day broke (if this day ever broke), adding new deposits to the crust of mud, sticking at those points tenaciously to the pavement, and accumulating at compound interest.

第三章冒頭(原文):

I have a great deal of difficulty in beginning to write my portion of these pages, for I know I am not clever. I always knew that. I can remember, when I was a very little girl indeed, I used to say to my doll when we were alone together, "Now, Dolly, I am not clever, you know very well, and you must be patient with me, like a dear!"

第一章は名詞構文ばかりで、名詞中心の英語らしさを強く感じられる。第三章は一人称の文ばかり、単語は初級的なものばかりで、確かに幼稚さを感じる。

 

久生十蘭

友人に勧めたついでにいくつか短編を読み直した。

むかし坂口安吾が好きという話を友人にしたら、その父親が文学部の教授で、坂口安吾が好きなら久生十蘭を読みなさいと友人づてに勧められた。大当たりだった。文学部教授すげえ。

好きな作家の本は限られたすべてを読むと残りがなくなってしまうのが嫌で未来の自分のために残す癖があるけど、いつ死ぬかわからないしいつ嗜好が変わるかもわからないからさっさと読んだ方がいいなと最近は思うようになってきた。

 

新宿御苑

御苑は秋がいちばん好き。初夏と秋以外行ったことはないけど、秋がいちばんいいに決まってる。

 

音楽

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