パスポートが汚れた私もアメリカに行きたい!

この記事は eeic(東京大学工学部電気電子・電子情報工学科)Advent Calendar 2018 の5日目の記事として書かれたものです。

TL;DR

国際会議に参加するため米国に行きたいけどイラン渡航歴がありESTAが下りなくてビザ取得のための手続きをしたという話などです。

※ 2018年10月時点の情報です。あくまで過去の情報として参考にするに留め、必ず最新の公式情報1 を確認してください。

※ 犯罪歴がある人の場合も手続きの大半は同じっぽい2 ので、犯罪者の皆さんも参考にしてください。  

はじめに

2017年1月、ドナルド・トランプが米国大統領就任。同年、イラク・シリアなどイスラーム教徒が多数を占める複数か国の国民の米国入国禁止令が執行されました3
トランプ大統領の対イスラーム政策は大きな注目を集めましたが、実は2017年以前より上記の国に対しては米国渡航において不利な政策がとられていました4
そしてこの政策は特定の国籍の人間のみならず、特定の国への渡航歴がある任意の国籍の人間の米国渡航も制限するものであり、パスポートが世界最強(ビザなし渡航可能先国家数世界トップ5 )と言われる日本国民も例外ではありません。
通常、日本人は米国渡航の際ビザが免除され代わりにESTAを発行します。これは事前準備を忘れた場合でも空港で手続きできるくらい簡単にできます。
しかし、特定の国家への渡航歴がある人間や犯罪歴のある人間はビザ免除プログラムが使えません。
そのような人間は面接による審査を経てビザを発行することになるのですが、私はイランへの渡航歴によりこれを経験したので、本記事ではその記録を書きます。

eeic Advent Calendar なのでこれを読んでいる人は国際会議参加や労働などのために今後米国に行く可能性のある人が多いのではないでしょうか。
そのうち不都合な渡航歴や犯罪歴を持つ人や今後歴を作る人の参考になれば幸甚です。

面接の準備

こちらのサイトで「DS-160」というビザ申請用紙を作成する必要があります。
詳細はこちらで説明されています。

大事ポイント:

  • 会議参加のため渡航の目的が「科学分野の会議への参加」となり、商用ビザ(B-1)が該当する。
  • 大量の質問に回答させられるので申請用紙の作成に1時間くらいかかる。
  • 20分間入力を行なわないと強制的にセッションが終了し最初からやり直す羽目になる。Application ID を覚えておけば途中からやり直すことができる。

商用ビザ(B-1)申請の詳細はこちら
面接への「補足資料」の持参が指示されているが、

補足書類は、領事が面接で考慮する多くの要素の一つに過ぎません。領事は各申請を個別に審査し、専門性、社会性、文化などの角度から検討します。領事は申請者の具体的な意志、家族の状況、自国での長期的な展望や将来の見込みなどを検討します。各事例が個々に審査され、すべての判断は法律に基づいてなされます。

という曖昧なことが書かれているし、米国ビザを申請する一般市民が皆これらをちゃんと読めて条件を完璧に満たせることはないだろうと思ったので指定された書類のうち一部(銀行残高証明書や大学の成績表など)は無視して重要そうな書類(パスポートや証明写真など)だけ用意しました。

注: 科学技術関連会議に出席するためにビザを申請する人は特別の手続きが必要です。次の追加書類を提出してください。手続きに要する時間は個々のケースにより異なりますので、パスポートが届くまで旅行の最終決定は控えてください。

  • 完全な履歴書6
  • 全ての出版物のリスト(該当者のみ)
  • 学校からの許可通知または手紙

書かれていますが、後述の通り3分の面接でビザの発行は決まりカンゼンナリレキショはほぼ読まれなかったくせにカンゼンナリレキショの作成はだるいので用意しなくてもいいのでは~~~~~って気がする。

面接

私の持参物リスト。前述の通り主観によりしょうもない書類は無視しました。

  • 残存有効期間6か月以上のパスポート
  • 過去10年以内に発行されたパスポート
  • DS-160申請完了確認ページ
  • 証明写真7
  • カンゼンナリレキショ
  • 学会から交付された VISA Assitance Letter

米国大使館は溜池山王14番出口から徒歩2分。
公道に警察がいて「お前は大使館に用があるのか」と声をかけてきたり入口で警備員10人がかりで2回荷物チェックしたりで当然ですが警備は厳重でした。

ノートパソコンやカバンなどは大使館への持ち込みが禁止されている8 ので極めて軽装で行く必要があることに注意します。
8:30時点で待合室に30人程度で、国籍は半分ほどが日本人のように見えました。
参書類がクリアファイルに入れてある前提で作業が進む(クリアファイルごと提出して管理される)のでそうする必要があります。 待合室に証明写真機があり、用意していた証明写真に不備(笑顔で映ってる・眼鏡をかけているなど)があれば撮り直せるし用意していかなくても当日撮れるようです。
DS-160申請完了確認ページにはバーコードが記載されており、これを印刷して持ってこなかった場合当局で登録データを探すが見つからない場合もあり、その場合出直すことになるらしいです。

面接は3分程度。ここだけ英語。

Q1 いつ修士を修了するのか?
Q2 渡米の目的はカンファレンスへの出席で合っているか?
Q3 なぜESTAを使わないのか?
Q4 なぜイランに行ったのか?
Q5 どのくらいの期間イランに滞在したか?

面接官「パスポートとビザは1週間後に郵送されます」
 私 「つまり私にビザが発行されることは確定か?」
面接官「はい」

9:00に全て終了。面接終了の時点でビザの発行が確定します。

パスポートは1週間以内に郵送されて来て、ビザはパスポートのスタンプページに貼られていました。

 

入国審査

ビザは10年間有効ですが、各滞在には有効期限があります。
入国審査で帰国便の日を聞かれ、その日からすこし余裕を持った日が今回の滞在期限としてスタンプに記入されます。その日までに出国しないと怒られるっぽいですね。
入国審査は10年間毎回これが行われるそうです。

 

学会にて

当の学会ではビザが下りず渡航に失敗した人がたくさんいた(その大半は中国人だった)ので、発表者不在というシーンを何度か見ました。
その場合同じ研究グループの人間が代わりに発表する、あらかじめ録音した音声を流す、などの対応が見られました。質疑応答はなし。何かあったらここにメールしてねってメールアドレスを示すスタイルが多かったです。
後で知ったんですが No-show policy というのがあり、論文がアクセプトされても発表を行わなかった場合はアクセプトがなかったことになるらしいですね。

 

他国のビザあれこれ

せっかくなので私が経験した他の国のビザのトラブルやパスポート汚染について書きます。

イラン

後述するイスラエル渡航歴により法的には入国は拒否されるはずだが実践的にはイスラエル渡航歴は秘匿可能なので入国できた。
そもそも米国ビザを取得する必要を生んだ元凶(?)。入国審査ゲートの手前でアライバルビザを8,000円くらい払って取得する。
ビザ取得時に滞在予定期間を申請するが、私は申請よりも長く滞在し出国時ビザが1日切れていたので出国が簡単には認められなかった。
ゲートで30分くらい待ってたら最終的にお咎めなしで解放された。

イスラエル

観光目的・滞在期間90日以内など条件を満たせば日本国籍者はビザなしで入国可能。
イスラエル入国歴があるとイランなどイスラーム諸国への入国を拒否されることがあるが、イスラエルは入国スタンプをパスポートに捺さず代替となる紙切れがパスポートに簡易的に貼られる。青と白の2枚あった気がする。
出国時必要となるのでイスラエル滞在中は持っておく必要があるが、後にパスポートから痕跡を残さず取り除ける

アゼルバイジャン

本土および飛地ナヒチェバン

おそらくこの話はアゼルバイジャンビザに限らず一般的。
旅行用ビザは数ヶ月有効だが1度しか使えない。私はこれを見落として有効期間中何度でも使えるものと勘違いしていた。
その結果、飛地であるナヒチェバンに一度入国したあと他の国を経て本土に入国しようとしたところ入国を拒否されて深夜2時のジョージア辺境に放り出された
このとき当局の人間たちは英語を話さずアゼルバイジャンジョージアリンガフランカであるロシア語で全てのやりとりが行われたので、ロシア語を理解できない場合ロシア語と自分の解する言語を解する協力的な人間が場にいないと状況を理解できないまま放り出される可能性がある。

ナゴルノ=カラバフ

(ここは私は行っていない。)アルツァフ共和国として1991年にソ連崩壊に際して独立宣言をしたが、日本をはじめ他国の国家承認を得られていない地域。アゼルバイジャンが自国の領土として主張しており国際的にもアゼルバイジャンに属するものと認識されているが、実態としてはアルメニア自治州であり、アゼルバイジャンアルメニア間の紛争の火種となっている。
ナゴルノ=カラバフのビザはアルメニアで事前に取得するほかにナゴルノ=カラバフ到着後に取得することができる。ナゴルノ=カラバフへ入る経路はアルメニアにしかなく、ナゴルノ=カラバフ渡航歴があるとアゼルバイジャンからは「自国への不法入国」と見做され本土への入国が拒否されるらしい。
そのため、アゼルバイジャンアルメニア・ナゴルノ=カラバフを渡り歩く場合はナゴルノ=カラバフのあとにアゼルバイジャンに行く旅程としないよう注意が必要。
あと、アゼルバイジャン側の国境近くをうろちょろしてるとアルメニアの軍人に殺害されるらしい9

ポルトガル

学部2年生のころポルトガルの禅寺で雲水的生活をしたかったので、1年分ビザが欲しいとポルトガル大使館に雑に申請したら「滞在中面倒を見てくれる大学や企業などの受け入れ許可が必要」と言われた。
そこで、ポルトガルにある禅寺龍門寺の禅マスター10にメールし1年間お世話になる約束を確保した。
しかし、大使館曰く寺ごときではダメとのことでビザは下りなかった。ポルトガルビザ1年分の申請に寺のバックアップが認められないという情報はインターネットに見つからないので、本記事の貴重なお話です。
当時勉強していたポルトガル語で書いたメールのやり取りを今見返しても、ポルトガル語を忘れたのでほとんど理解できない。"Bem-vindo no dojo." とか "gasshô" とか書いてあって、「Welcome to 道場」とか「合掌」とか言ってるんだと思う。
結びの挨拶に "gasshô" を使う慣習の存在を予想したことはありますか?

3ヵ月以内ならシェンゲンビザが取れたので人生を調整して3ヵ月だけでも行くべきだったというのは私の人生における唯一の後悔です。

結論

ちゃんと米国行けた。
まずい渡航歴や犯罪歴を作っても大丈夫っぽいのでみなさんも安心して好きなことやってください。


  1. 在日米国大使館・領事館「ビザ免除プログラムの改定及びテロリスト渡航防止法」https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/visa-waiver-program-ja/vwp-improve-prevent-terror-act-ja/

  2. 在日米国大使館・領事館「有罪判決を受けた人」 https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/faq-list-ja/criminal-convictions-ja/

  3. BBCニュース 「米最高裁、入国禁止令の全面的な執行認める」https://www.bbc.com/japanese/42233272

  4. 在日米国大使館・領事館「ビザ免除プログラムの改定及びテロリスト渡航防止法」https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/visa-waiver-program-ja/vwp-improve-prevent-terror-act-ja/

  5. HUFFPOST「日本のパスポート、初の単独世界1位。ビザなし渡航先が190カ国・地域に」https://www.huffingtonpost.jp/2018/10/10/japan-passport-ranking-1_a_23556266/

  6. © CGI Federal Inc. “RESUME (sample)” http://www.ustraveldocs.com/SampleResume_Tokyo.pdf

  7. © CGI Federal Inc. 「写真および指紋」 http://www.ustraveldocs.com/jp_jp/jp-niv-photoinfo.asp

  8. 在日米国大使館・領事館「ご来館前の注意事項」https://jp.usembassy.gov/ja/visas-ja/nonimmigrant-visas-ja/visiting-the-embassy-or-consulate-ja/

  9. REUTERS “Azeri woman and child killed by Armenian forces near Nagorno-Karabakh boundary: defense ministry” https://www.reuters.com/article/us-armenia-azerbaijan-conflict/azeri-woman-and-child-killed-by-armenian-forces-near-nagorno-karabakh-boundary-defense-ministry-idUSKBN19Q1VG

  10. 龍澤寺榮山老師の使用するテクニカルターム